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相続税の節税のために孫を養子にすると違法になりますか
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相続税対策で孫を養子にすることは違法とは言えません。「節税と養子縁組の意思は併存できる」とする最高裁判決もあります。しかし、相続税法には、不当な節税目的の養子を不利に扱うことができるとする規定があります。他の相続人とのトラブルも懸念されますので、慎重な判断が求められます。
孫を養子にすると節税になる理由
相続税には、(3,000万円+相続人の数×600万円)の基礎控除があります。相続人1人につき500万円の生命保険金の非課税枠もあります。したがって、相続人の数が増えるほど節税になります。また、相続税額の総額を計算する際にも、分母が大きくなって1人あたりの「法定相続分に応ずる取得金額」が少なくなり、相続税率が低くなります。
養子は相続人の数に入れない!?
民法上、養子は全員、実子と同様に法定相続人になります。しかし、税務上の取り扱いは異なります(後述)。また、相続税法63条は、「相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合」は、税務署長は、その養子を相続人の数に入れずに、相続税の課税価格や相続税額を計算することができるとしています。
しかし、養子縁組した孫について、この63条規定が実際に適用された例は聞きません。税務当局が「不当に減少させ」たことを立証するのは難しいでしょう。しかし、例えば、死亡直前に養子縁組し、その養子にすぐ相続放棄させるようなケースであれば、「不当な減少」と認定されるおそれはあります。
節税は養子縁組の意思と両立できる
一方、民法上、養子縁組は無効になるのは、「当事者間に縁組をする意思がない」ときです(民法802条)。このため、孫を養子にしたケースで養子縁組の無効確認を求めた判例があります。
この養子縁組は、税理士が節税対策として勧めたもので、他の相続人が「縁組する意思を欠く」として訴えました。しかし、最高裁は平成29年1月31日、「相続税の節税の動機と縁組をする意思とは,併存し得る」とし、「専ら相続税の節税のために養子縁組をする場合であっても,直ちに当該養子縁組について民法802条1号にいう『当事者間に縁組をする意思がないとき』に当たるとすることはできない」とし縁組を有効とする判決を下しました。この訴訟について原審である東京高裁は、養子縁組を無効とする判決を下しており、縁組の意思の有無を判断するのが簡単ではないことわかります。
孫を養子縁組するときの注意点
養子の人数制限
相続税法では、計算上、養子縁組した全員が相続人とされるわけではありません。基礎控除の計算、相続税の総額の計算、生命保険金の非課税限度額の計算などでは、人数が制限されているのです。
被相続人(故人)に実子がある場合は養子は1人、実子がなく養子が2人以上の場合は養子は2人しか計算上の相続人にすることはできません。
養子の人数制限の具体例
遺産が7,200万円、被相続人の長男Aと、Aの子で被相続人の養子であるB、Cの計3人が法定相続人である場合で見てみましょう。被相続人には、実子Aがいますので、養子は1人しか計算上の相続人の数に含めません。計算式は以下のようになります。
【基礎控除】
3,000万円+600万円×2=4,200万円【課税遺産総額】
7,200万円—4200万円=3,000万円【法定相続分に応ずる取得金額】
A 3,000万円×1/2=1,500万円
養子1人 3,000万円×1/2=1,500万円【相続税の総額の基となる税額】
相続税率は15%で控除額50万円なので
A 1,500万円×0.15-50万円=175万円
養子1人 1,500万円×0.15-50万円=175万円【相続税総額】
175万円+175万円=350万円
※次の手順として、この相続税総額を実際の相続割合に応じて按分します。▽養子の人数制限の規定がなかったとしたら
【基礎控除】
3,000万円+600万円×3=4,800万円【課税遺産総額】
7,200万円-4,800万円=2,400万円【法定相続分に応ずる取得金額】
A 2,400万円×1/3=800万円
B 2,400万円×1/3=800万円
C 2,400万円×1/3=800万円【相続税の総額の基となる税額】
相続税率は10%で控除額0円なので
A 800万円×0.1=80万円
B 800万円×0.1=80万円
C 800万円×0.1=80万円【相続税総額】
80万円+80万円+80万円=240万円つまり、養子の人数制限がないときより、あったとき方が
350万円-240万円=110万円だけ
相続税総額は多くなるのです。しかし、以下の場合などでは、税務においても被相続人の実子として扱われ、すべて相続人の数に入れることができます。
- 特別養子縁組による養子
- 配偶者の実子である養子(連れ子が養子となった場合)
- 実子がすでに死亡しているため、実子に代わって相続人となった孫(代襲相続)
相続税の2割加算
被相続人の一親等の血族や配偶者以外の人が相続や遺贈によって財産を取得する場合は、相続税額が2割加算されます。養子は一親等の血族ですが、孫が養子になっている場合は、2割加算されます。代襲相続人になっている孫は2割加算されません。
例えば、「相続税総額」を、各人の実際の相続分に応じて配分した相続税額が100万円であった時、加算額は100×0.2=20 万円となります。
関連条文
民法、相続税法
▽民法802条
縁組は、次に掲げる場合に限り、無効とする。
一 人違いその他の事由によって当事者間に縁組をする意思がないとき。
▽相続税法18条
相続又は遺贈により財産を取得した者が当該相続又は遺贈に係る被相続人の一親等の血族(当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつた当該被相続人の直系卑属を含む。)及び配偶者以外の者である場合においては、その者に係る相続税額は、前条の規定にかかわらず、同条の規定により算出した金額にその百分の二十に相当する金額を加算した金額とする。
2 前項の一親等の血族には、同項の被相続人の直系卑属が当該被相続人の養子となつている場合を含まないものとする。ただし、当該被相続人の直系卑属が相続開始以前に死亡し、又は相続権を失つたため、代襲して相続人となつている場合は、この限りでない。
▽相続税法63条
第十五条第二項各号に掲げる場合において当該各号に定める養子の数を同項の相続人の数に算入することが、相続税の負担を不当に減少させる結果となると認められる場合においては、税務署長は、相続税についての更正又は決定に際し、税務署長の認めるところにより、当該養子の数を当該相続人の数に算入しないで相続税の課税価格(第十九条又は第二十一条の十四から第二十一条の十八までの規定の適用がある場合には、これらの規定により相続税の課税価格とみなされた金額)及び相続税額を計算することができる。