市町村長が後見の申立てを行うのはどんな場合ですか

家庭裁判所の写真

認知症の高齢者に成年後見人をつけるには、家庭裁判所に後見開始の申立てをしなければなりません。しかし、身寄りのない場合、親族がいても疎遠な場合などは、市区町村長が代わりに申立てをします。これを「首長申立て」といいます。

*成年後見の申立てができるのは、本人,配偶者,4親等内の親族,成年後見人等,任意後見人,任意後見受任者,成年後見監督人等,市区町村長,検察官です。

後見、4分の1は首長申立て

身寄りのない高齢者の増加などにともなって、市区町村長の後見開始の申立て*は年々増加しています。令和5年には全国で9607件に上り、後見開始申立て全体の23.6%を占めています。奈良家裁管内では、令和5年の市町村長申立ては104件あり、後見開始申立て全体の21.7%を占め、近畿圏では和歌山家裁管内に次いで2番目に高い割合になっています。

*後見開始のほか、保佐開始,補助開始、任意後見監督人選任も含みます

重荷になった親族調査

首長申立てをするには、膨大な時間と労力を要するのが親族調査です。民法上、後見開始の申立てができる親族は4親等以内で、それには、「子、孫、きょうだい」だけではなく、「おい、めい、いとこ」なども含まれます。4親等以内に、どんな親族がいて、どこに住んでいるのか、後見開始を申立てる意思があるのか、そうした確認が難しいことが、首長申立てが進まない原因になっていたのです。

2親等以内を確認すればOK

そこで厚労省は、平成17年7月29日、「市町村申立てに当たっては、市町村長は、あらかじめ2親等以内の親族の有無を確認すること」「2親等以内の親族がいない場合であっても、3親等又は4親等の親族であって審判請求をする者の存在が明らかであるときは、市町村申立ては行わないことが適当」とする通知を出しました。

これは、首長申立てするには2親等以内の親族を確認すればよく、存在の有無がわからない3親等、4親等まで確認しなくてもよい、とう趣旨です。

こうした通知を出したのは、厚労省にも、「4親等以内の親族の有無確認作業が極めて繁雑であることも要因となって、市町村申立てが十分に活用されていない状況」という認識があったからです。

この厚労省通知によって首長申立てのハードルが下がりました。市区町村としては、4親等まで親族を調査しなくても、2親等内の親族を調べて、申立てできる人がいないことを確認すれば、責任を問われることはありません。3親等、4親等の親族については、その人が申立てをする意思を持っていることが明らかな場合を除けば、特段、気に留めなくてもよいわけです。

首長申立ての対象、奈良市の場合

首長申立てなど後見制度の利用支援に関しては、全国の9割以上の自治体で要綱を制定していて、これには、厚労省の通知が反映されています。例えば、奈良市の要綱「奈良市成年後見制度利用支援事業実施要綱」(令和2年)では、市長申立ての対象になる人を次のように定めています。

  • 2親等以内の親族または配偶者がいない者
  • 2親等以内の親族等があっても、後見・保佐・補助の申立てを拒否している者
  • 2親等以内の親族等があっても、これらの者による虐待、財産の侵害等の事実がある者
  • 2親等以内の親族等が戸籍上確認できるが、これらの者と音信不通の状態にある者
  • 後見開始等の審判の申立てに急を要すると市長が判断する者

その上で、「審判請求対象者に3親等又は4親等の親族がいる場合であって、当該親族において後見開始等の審判の申立てをすることが明らかであるときは、審判請求対象者としない」と規定しています。

首長申立てに親族が反対したら…

このように、申立てをしてくれる親族がいないことが、首長申立ての要件です。中には、自分が申立てをすることを拒否するだけでなく、首長申立てにも反対する親族もいます。財産を後見人が管理して、親族の自由にできないことに反発するなどのケースです。

もちろん、親族が首長申立てに同意してくれることが望ましいのですが、後見開始を急ぐ理由があるときは、そうも言っていられません。親族が反対していても、本人の権利を守るために必要なら、首長申立てに踏み切るべきでしょう。

首長申立て前の手続き

首長申立てでは、申立てをする前に、事務を点検するために行政機関内の審査会にかける場合があります。奈良市の要綱では、審判請求の適否や類型などについて、福祉部長、長寿福祉課長らで構成する成年後見審判審査会で協議することを定めています。

関連条文
老人福祉法第32条
市町村長は、65歳以上の者につき、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは、民法第7条(筆者注:後見開始の審判)、第11条(同:保佐開始の審判)、第13条第2項、第15条第1項(同:補助開始の審判)、第17条第1項、第876条の4第1項又は第876条の9第1項に規定する審判の請求をすることができる。

老人福祉法