相続人に認知症の人がいます。遺産分割協議はどうしたらいいですか

意思能力がない人が行った法律行為は無効になります。これは遺産分割協議にも当てはまります。また、意思能力がない人を除外して遺産分割協議をすることもできません。意思能力とは、行為の意味や結果を理解し判断する能力です。

認知症の人が必ずしも意思能力を欠いているわけではありません。認知症には、軽い物忘れ症状がみられる「疑い」から、十分な介護がなければ日常生活が困難な「重度」まで様々な段階があります。

軽い症状であれば、遺産分割協議は可能でしょう。重い症状であれば、成年後見制度を利用する必要が出てきます。

将来、他の相続人らから本人の意思能力について疑義が出ると、裁判所が遺産分割を無効と判断する可能性があります。したがって、本人の意思能力が、疑義が出るレベルであるのかどうかの見極めが重要になってきます。医師の診断書があれば安心ですが、これを書いてくれる医師を探すのは簡単ではありません。

後見制度を利用する場合は、配偶者や4親等内の親族らが、本人の住所地を管轄する家庭裁判所に申立てを行います。

法定後見では三つの類型があります。分類の基準は、「精神上の障害により、事理を弁識する能力(判断能力)」が残っている程度の違いです。

成年後見判断能力を欠く常況
保佐判断能力が著しく不十分
補助判断能力が不十分

本人の代わりに法律行為ができる「代理権」については

  • 成年後見人は包括的な代理権をもっています
  • 保佐人、補助人は家庭裁判所が定めた行為について代理権が認められます

本人の法律行為を取り消すことができる「取消権」については

  • 成年後見人は、日常生活に関する行為を除くすべての法律行為について取り消すことができます
  • 保佐人は、遺産分割など「民法13条1項」所定の行為と裁判所が定めた行為を取り消すことができます
  • 補助人は、「民法13条1項」行為のうち裁判所が定めた行為を取り消すことができます

被補助人は一定の判断能力があるため、遺産分割協議ができる場合があります。

成年後見人らは、本人の利益を代表する人ですので、遺産分割協議においては、法定相続分の取得に努めます。そもそも、法定相続分どおりに遺産を分けるのであれば、遺産分割協議は不要であって、認知症を考慮しなくてもよいことになります。しかし、不動産を共有にしてしまうと、売却が困難になるなどの問題があります。

関連条文
民法13条
被保佐人が次に掲げる行為をするには、その保佐人の同意を得なければならない。ただし、第9条ただし書に規定する行為については、この限りでない。
一 元本を領収し、又は利用すること。
二 借財又は保証をすること。
三 不動産その他重要な財産に関する権利の得喪を目的とする行為をすること。
四 訴訟行為をすること。
五 贈与、和解又は仲裁合意(中略)をすること。
六 相続の承認若しくは放棄又は遺産の分割をすること。
七 贈与の申込みを拒絶し、遺贈を放棄し、負担付贈与の申込みを承諾し、又は負担付遺贈を承認すること。
八 新築、改築、増築又は大修繕をすること。
九 第602条に定める期間を超える賃貸借をすること。(以下略)

民法859条
後見人は、被後見人の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為について被後見人を代表する

民法

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