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相続で不動産を共有にすると、どんな不都合がありますか
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相続において、基本的に不動産の共有はお勧めできません。一言でいうと、共有は禍根を残すからです。特に、相続人の間で不和がある場合、共有は問題を先送りするだけで、自分の配偶者や子どもを苦しめる結果になります。
不動産を共有にすると
- 売却、賃貸などが難しくなる
- 権利関係がどんどん複雑になり、手がつけられなくなる心配がある
- 適切な管理がなされずに、不動産の価値が低下する恐れがある
――といった難点があるのです。
ひとつの会社に何人ものトップ級がいると、経営が停滞し混乱するのと同様、ひとつの不動産に複数の所有者がいると、不動産に関する行為は停滞し混乱します。
売却、賃貸が難しくなる。
不動産の所有者が一人なら、その人の判断で売ることも、貸すことも、なんでもできます。ところが、共有になると、物理的に手を加えたり、契約したりする上で「持分」という制約が発生します。
売却、賃貸、大規模改修など大事なことをするには、相応の持分がないとできなくなります。売却、大規模改修には全部の持分が、軽微な改修や短期間の賃貸には過半数の持分が必要になります。
持分とは、その不動産に関する所有権の割合です。
例えば、ABC3人のきょうだいで3分の1ずつ不動産を所有しているとき、ABが合意すれば、持分3分の2の意思ということになります。このように持分を確保するには、共有者の合意が必要です。
合意できるかどうかは、各共有者の経済状況、共有者間の人間関係に左右されます。ふところ事情や親密さは時の経過とともに変化するのが世の常です。現状で問題がなくても、将来、問題が生じる懸念があります。つまり禍根を残すのです。
共有者全員の同意が必要 増改築、土地の造成工事、土地上への建物の建築
売却契約
借地借家法の適用のある一般的な賃貸契約持分の価格の過半数が必要 共有物の形状又は効用の著しい変更を伴わない行為*
例えば外壁工事、屋上防水工事、道路の舗装
5年を超えない土地、3年を超えない建物の賃貸契約*各共有者単独でできる 補修、不法占拠者への明渡し請求 *は令和5年4月1日施行
賃貸は長期間なら共有者全員の合意が必要
家を人に貸すときは、借地借家法の適用を受けます。この契約では、更新が原則とされていて、契約期間が長期間継続される可能性が高くなりますので、共有者全員の同意が必要とされます。
一方、借地借家法の適用を受けていても、「一時使用目的」であったり、3年を超えない定期建物賃貸借であったりする場合は、契約が長期にわたることはないので、持分の過半数で行えます。
権利関係はどんどん複雑に
権利関係が複雑になると、全員の意思確認をすること自体が大仕事になる上、異を唱える人、意思能力のない人、行方不明者などが発生する可能性が高まります。そうなると、合意を得ることがますます難しくなります。
最初AB2人で不動産を共有していたとします。Aには配偶者と3人の子、Bには配偶者と2人の子がいた場合、Aが亡くなり、法定相続通りに権利を承継すると、共有者は一気に5人に増えます。さらに、Bが亡くなると、7人になります。
7人が国内に居住していいて所在がわかっていても、7人の意思確認をすることは容易ではありません。人数が増えるほど、異を唱える人が出てきやすいでしょう。時間が経てば認知症などで意思表示ができない人が現れる。行方不明者には、不在者財産管理人をたてる必要があります(令和5年4月1日から裁判所の決定があれば、不明者以外の共有者全員の同意で売却などができるようになります)。
自分の持分を、良心的とは言えない業者に売却する人も出てくるかもしれません。親族だけでも難しい合意の取りまとめが、営利本意の業者が加わることで、さらに難しくなります。
物件は管理不全に
共有は、構造的に不動産の管理不全に陥るリスクをはらみます。
不動産の価値を維持するためにはコストがかかります。建物なら大規模修繕が欠かせません。共有者全員が持分に応じてそのコストを負担するのが筋ですが、簡単にはいきません。
行方不明者がいると、負担を求めることさえできません。「そんなお金は出せない」という共有者が出てくるかもしれません。
そもそも自分が一部しか権利を持たない土地については、関心が希薄になりがちで、維持管理についてのモチベーションも低くなります。「近くにいる者がなんとかしてくれるだろう」と、勝手な期待をいだく人もいます。
こうした状況にあると不動産は放置されるようになります。世代が移るにしたがい、この傾向は強くなります。こうなると不動産は劣化し、価値は低下し、借り手もつかなくなり、負の財産となっていきます。
関連条文
民法、借地借家法
▽民法251条
各共有者は、他の共有者の同意を得なければ、共有物に変更を加えることができない。
▽民法252条
共有物の管理に関する事項は、前条の場合を除き、各共有者の持分の価格に従い、その過半数で決する。ただし、保存行為は、各共有者がすることができる。
▽民法253条
各共有者は、その持分に応じ、管理の費用を支払い、その他共有物に関する負担を負う。
▽借地借家法38条
期間の定めがある建物の賃貸借をする場合においては、公正証書による等書面によって契約をするときに限り、第三十条の規定にかかわらず、契約の更新がないこととする旨を定めることができる。この場合には、第二十九条第一項の規定を適用しない。