家督相続とは、どんな制度ですか

家督とは戸主という地位に伴う一切の権利義務のことで、明治31年に制定された明治民法では、原則として、長男が戸主の地位も財産も単独相続しました。

明治期の風景

家督相続と現在の相続と異なるのは、

  • 戸主の地位と財産を1人の直系卑属が受け継いだ
  • 隠居などによって被相続人の生存中にも相続が開始された
  • 推定家督相続人に相続放棄の権利がなかった

直系卑属が家督相続人となる上で優先されたのは①親等の近さ②男③嫡出子④年長者などでしたので、おのずと長男が第一候補者となりました。

穂積陳重
明治期の民法起草者の一人、穂積陳重(ほづみのぶしげ)

戸主が亡くなった時、配偶者、長女や次男らに相続権はなかったわけです。法的には何ももらえませんでした。しかし、実際には、長男以外の子にも遺産が承継されることがあり、こうした実態に合わせようと、民法改正の動きがありましたが、結局、戦後まで改正されませんでした。

一方、明治民法で戸主以外の人が死亡したときの相続は「遺産相続」と呼ばれ、今と似た形の相続が行われていました。しかし、配偶者は第二順位で、第一順位である直系卑属がいれば相続権はありませんでした。兄弟姉妹にも相続権はありません。

家督相続は歴史上のことと思われるかもしれませんが、令和の時代にも生きています。不動産登記は戦前から放置されていることが少なくないからです。名義人が死亡したのが旧法の時代(明治31年~昭和22年)であれば、原則として、旧法が適用されますので、旧法に則って相続人を調べる必要があります。ただし、当時、家督相続人の選定がなかった場合は、明治民法が適用されます。

関連条文
民法附則25条
応急措置法施行前に開始した相続に関しては、第二項の場合を除いて、なお、旧法を適用する。
② 応急措置法施行前に家督相続が開始し、新法施行後に旧法によれば家督相続人を選定しなければならない場合には、その相続に関しては、新法を適用する。(略)

明治民法964条
家督相續ハ左ノ事由ニ因リテ開始ス
1 戸主ノ死亡、隠居又ハ國籍喪失
2 戸主カ婚姻又ハ養子縁組ノ取消ニ因リテ其家ヲ去リタルトキ
3 女戸主ノ入夫婚姻又ハ入夫ノ離婚
明治民法970条
被相續人ノ家族タル直系卑属ハ左ノ規定ニ従ヒ家督相續人ト為ル
1 親等ノ異ナリタル者ノ間ニ在リテハ其近キ者ヲ先ニス
2 親等ノ同シキ者ノ間ニ在リテハ男ヲ先ニス
3 親等ノ同シキ男又ハ女ノ間ニ在リテハ嫡出子ヲ先ニス
4 親等ノ同シキ嫡出子、庶子及ヒ私生子ノ間ニ在リテハ嫡出子及ヒ庶子ハ女ト雖モ之ヲ私生子ヨリ先ニス
5 前四號ニ掲ケタル事項ニ付キ相同シキ者ノ間ニ在リテハ年長者ヲ先ニス

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