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賃貸物件の遺品処分に困らないようにするための方法は?
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人が亡くなると、その方の財産すべては相続人の所有物となります。したがって、賃貸住宅内の家財道具(遺品、残置物)一切も相続人のものです。大家さん(賃貸人)が勝手に遺品を処分することはできません。遺品がどうなるかは、高齢の入居者(賃貸人)にとって気がかりなことですし、処分ができないとなると、大家さんにとっては大きな問題となり、高齢者の入居を拒む原因にもなっています。
国交省が契約モデル
このように賃貸物件内の遺品を処分できない事態を回避するため、国交省は令和3年6月に、「残置物の処理等に関するモデル契約条項」と、これに対応した使いやすい契約書式を作成しました。大家さんと入居者が結ぶ賃貸契約とは別に、入居者と受任者が委任契約を結びます。自分の死後の事務を生前に依頼する「死後事務委任契約」の一種です。
賃貸契約+死後事務委任契約
この委任契約では、入居者が受任者に、遺品(残置物)の処分を委託します。受任者となるのは①推定相続人②居住支援法人や管理業者などの第三者です。推定相続人とは、配偶者や子、きょうだいなど将来、相続人となるはずの人です。
大家さんは基本的に受任者になれません。入居者のために事務をする受任者と大家さんの利益が一致しないことがあるからです。
賃貸契約と遺品処分の委任契約の関係
居住支援法人とは
身寄りのない方や、推定相続人がいても疎遠な方の場合は、居住支援法人を受任者とすることが選択肢になります。居住支援法人とは、高齢者などの要配慮者の家賃債務を保証したり、見守りをしたりする法人で、都道府県が指定しています。
奈良県では、令和6年4月現在、居住支援法人に社会福祉法人やNPOなど11法人が指定されています。
当事務所のある橿原市を業務エリアとしているのは、「ホームネット株式会社」(東京)、「社会福祉法人 萌」(大和郡山市)、「合同会社ランドドゥ」(生駒市)、「特定非営利活動法人空き家サポートセンター」(大阪府豊能町)、「株式会社ウィング・ディアー」(田原本町)、「社会福祉法人カトリック聖ヨゼフホーム」(御所市)、「株式会社1010」(香芝市)の7法人です。
契約書式の具体的な内容
では、実際に国交省が作成した契約書式「残置物の処理等に関する契約書」を見ていきましょう。条項では、委任者が受任者に遺品の処分、換金、移動などを委託することを定めます。委任者は契約時には入居者ですが、亡くなった後は、その地位を承継した相続人です。
甲(筆者注:委任者)は、乙(同:受任者)に対して、本賃貸借契約が終了するまでに甲が死亡したことを停止条件として、次に掲げる事務を委託する。
① (略)非指定残置物を廃棄し、又は換価する事務
② (略)指定残置物を指定された送付先に送付し、換価し、又は廃棄する事務
③ (略)指定残置物又は非指定残置物の換価によって得た金銭及び本物件内に存した金銭を甲の相続人に返還する事務「死亡したことを停止条件として」とは、「死亡した後に行うこととして」といった意味です。指定残置物とは、委任者が物件内に残した動産のうち、「廃棄してはならない」と指定したものです。これをリストにして保管します。
指定残置物リスト
委任者は、受任者に①「非指定残置物」を廃棄するかお金に換える②「指定残置物」を廃棄する、お金に換える、指定されたところに送る――ことを委託します。遺品に関する受任者の主要な仕事はこれになります。
受任者の主な任務
遺品の処分、換金、相続人らへの送付
受任者には、任務を実行するために、物件への立ち入り、動産を搬出して別の場所に保管する権限が与えられます。
3カ月経過後に廃棄
契約書では、このほか遺品について次のようなことが定められています。
- 委任者(もとの委任者の相続人)の意向を尊重し、委任者の利益のために遺品を処分する。
- 委任者が亡くなった時に通知する先を決めておき、遺品を搬出する2週間前までに、そこに通知する。
- 死亡から3か月経過した非指定残置物は、できるだけ換金し、残りは廃棄する。
- 指定廃棄物は、送付方法は委任者が決める。送付できない場合は、死亡から3か月経過した後に換金するか廃棄する。
- 住居から残置物を搬出するときは、大家さんらの立ち会いで、残置物の状況を記録する
- 換金して得たお金は、委任者の相続人に返還する
- 受任者が処分費用を負担したときは、委任者の相続人に費用を請求することができる。
- 残置物を換金したお金は、処分費用に当てることができる
遺言書で動産を遺贈していた場合は?
委任者が遺言を書いていた場合、遺言内容と委任契約内容との整合性が問題になってきます。
例えば、遺言に「一切の動産を橿原太郎に遺贈する」と書いている場合、どうすればいいのか。これについては、モデル契約書では次のように定めています。
甲(筆者注:入居者)が、本物件又はその敷地内に存する動産を遺贈し、特定財産承継遺言をし、又は甲の死亡によって効力を生ずる贈与をしたときは、甲は(略)遅滞なく、その目的である動産を指定残置物として指定しなければならない。この場合において、甲は、指定残置物の遺贈又は特定財産承継遺言について遺言執行者を指定し、又はその指定を第三者に委託したときは、その遺言執行者又は第三者をその指定残置物の送付先としなければならない。
動産を遺贈している場合、入居者はそれを指定残置物に指定します。そして、遺言執行者が指定されているときは、その人を遺品の送付先としなくてはなりません。
関連条文
住宅セーフティネット法
▽住宅セーフティネット法第42条
(筆者加筆:住宅確保要配慮者居住)支援法人は、当該都道府県の区域内において、次に掲げる業務を行うものとする。
一 登録事業者からの要請に基づき、登録住宅入居者の家賃債務の保証をすること。
二 住宅確保要配慮者の賃貸住宅への円滑な入居の促進に関する情報の提供、相談その他の援助を行うこと。
三 賃貸住宅に入居する住宅確保要配慮者の生活の安定及び向上に関する情報の提供、相談その他の援助を行うこと。
四 前三号に掲げる業務に附帯する業務を行うこと。