成年後見制度の保佐類型、補助類型では、申立て時などに本人の同意は必要ですか

類型によって異なる本人同意の要否

成年後見制度の後見類型では、本人の同意がなくても申立てできますし、選任された後見人に包括的な代理権が与えられます。一方、後見類型より判断力のある人に適用される保佐類型、補助類型では、本人の同意が重視されます。

判断力が著しく不十分な人を対象にした保佐類型では、申立てや保佐人への同意権・取消権の付与には本人の同意は必要ありませんが、代理権の付与には本人の同意が必要です。

判断力が不十分な人を対象にした補助類型では、申立て、同意権・取消権の付与、代理権の付与すべてに本人の同意が必要です。

同意権=本人が法律行為をする上で、保佐人等の同意を必要とする保佐人等の権利

取消権=保佐人等の同意を得ずにした本人の行為を、保佐人等が取り消す権利

代理権=本人に代わって、保佐人等が法律行為をする権利

 *保佐人等とは、保佐人と補助人のことです

 *法律行為とは、契約など法律的な効果が生じる行為です

意思尊重と権利保護

本人の意思は尊重しなければなりません。しかし、同時に、本人の権利を保護しなければいけません。本人の意思を尊重したために、権利を侵害してしまうことがあります。逆に、権利保護に重きを置いたために、本人の意思を軽んじてしまうこともあります。

例えば、本人が訪問販売を受けて高額なリフォームを契約し、それによって生活費がほとんどなくなってしまった場合、「リフォームしたい」は本人の意思ですが、最低限の生活をするという本人の権利は侵されてしまいます。

判断力のレベルに応じ、意思尊重と権利保護のバランスを考えた結果が、本人同意についての、後見、保佐、補助の違いになっているのです。

本人同意の要否

 申立て同意・取消権代理権
後見不要不要
保佐不要不要必要
補助必要必要必要

*後見類型では、ほとんどのことを後見人が代理するので、同意権は設定されていません。取消権は包括的に与えられています。

保佐・補助類型における本人同意のイメージ写真

①申立て時の本人同意

保佐類型の審判申立てについては、民法11条に定められています。本人同意については言及がなく、本人同意がなくても申立てはできます。

民法第11条(抜粋)

家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、補助人、補助監督人又は検察官の請求により、保佐開始の審判をすることができる

一方、補助類型の審判申立てについては、法律で「項」を立てて、本人同意の必要なことが明確に書かれています。

民法第15条(抜粋)

家庭裁判所は、本人、配偶者、四親等内の親族、後見人、後見監督人、保佐人、保佐監督人又は検察官の請求により、補助開始の審判をすることができる
2 本人以外の者の請求により補助開始の審判をするには、本人の同意がなければならない

②同意権・取消権の本人同意

保佐開始の審判が出ると、本人同意なしで、保佐人に同意権と取消権が与えられます。その範囲は民法第13条第1項に規定する行為と裁判所が定めた行為です。

民法第13条第1項には、保佐人の同意を得なければならない行為として、9項目を規定しています。これを具体的に示すと、次のようになります。

■ 保佐人の同意が必要な行為

  • 預貯金の払い戻し
  • 借金、貸金
  • 不動産の売買・貸借、住居の新築、増改築
  • クレジット契約の締結
  • 通信販売や訪問販売による契約の締結
  • 訴訟
  • 贈与
  • 遺産分割協議

一方、補助については、同意権・取消権は、当然に付与されるものではありません。審判において、申立人の意向を踏まえ、家庭裁判所が同意権・取消権の範囲を決めます。この審判の申立てには本人の同意が必要です。

その範囲は、民法第13条1項の行為の一部に限定されます。これを超えて同意権・取消権を設定することはできません。

民法第17条(抜粋)

家庭裁判所は、被補助人が特定の法律行為をするにはその補助人の同意を得なければならない旨の審判をすることができる。ただし、その審判によりその同意を得なければならないものとすることができる行為は、第13条第1項に規定する行為の一部に限る
2 本人以外の者の請求により前項の審判をするには、本人の同意がなければならない

③代理権の本人同意

保佐類型では、保佐人が代理権を得るには、本人の同意を得て、家庭裁判所に代理権付与の審判を申立て、代理権の範囲を決めてもらわなくてはなりません。

代理権は、原則、どんな法律行為にも設定することができます(婚姻などは除く)。同意権・取消権の範囲と重なる部分もありますが、その範囲内で代理権を設定しなくてはならないわけではありません。

代理権は後になって取り消すこともできます。

民法第876条の4

家庭裁判所は、第11条本文に規定する者又は保佐人若しくは保佐監督人の請求によって、被保佐人のために特定の法律行為について保佐人に代理権を付与する旨の審判をすることができる
2 本人以外の者の請求によって前項の審判をするには、本人の同意がなければならない
3 家庭裁判所は、第一項に規定する者の請求によって、同項の審判の全部又は一部を取り消すことができる

代理行為の例には次のようなものがあります。

財産関係不動産の売買・貸借契約の締結や解除
住居の新築、増改築、修繕、解体
不動産内の動産の処分
預貯金に関する金融機関等との取引
保険契約の締結
保険金の受領
年金、生活保護、地代などの収入の受領や手続き
公共料金、保険料、税金の支出や手続き
携帯電話の契約や解約
相続関係相続の承認や放棄
贈与や遺贈の受諾
遺産分割に関する手続き
身上保護関係介護契約など福祉サービス契約の締結や解除
介護保険、要介護認定、健康保険に関する申請
福祉施設への入所に関する契約の締結や解除
医療契約、病院への入院に関する契約の締結や解除
その他税金の申告、納付、還付などの手続き
登記の申請
マイナンバーカードの手続き
住民票の異動に関する手続き

補助についても、補助人に代理権を付与するには、保佐と同じように、本人の同意、家庭裁判所の審判が必要になってきます。代理権の範囲も保佐と同様です。

第876条の9

家庭裁判所は、第15条第1項本文に規定する者又は補助人若しくは補助監督人の請求によって、被補助人のために特定の法律行為について補助人に代理権を付与する旨の審判をすることができる
2 第876条の4第2項及び第3項の規定は、前項の審判について準用する