
訪問介護ヘルパーはどこまでサポートしてくれるのか

高齢者をサポートする活動をしていると、訪問介護のサービス範囲について、利用者から不満の声を聞くことが少なくありません。不満の例としては、「たばこを買ってくれない」「配偶者の分まで調理してくれない」「仏間のそうじをしてくれない」「草引きをしてくれない」といったものがあります。
利用者が側からすると、「そんなに難しいことではないのに、なんでやってくれないの?」という気持ちになるようです。

訪問介護の基準は「老計第10号」に
訪問介護では、いったい、なにができて、なにができないのでしょうか。
その基準となっている重要な通知があります。「老計第10号」という通知で、タイトルは「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」。厚生省老人保健福祉局老人福祉計画課長が平成12年3月17日に発出しました。
今から25年前に示された基準ですが、現在まで、訪問介護でやっていいこと、やってはいけないことを仕分ける国の基準となっています。自治体によって、基準は微妙に異なりますが、それは、骨格である「老計第10号」に自治体が独自の肉付けをしているからです。
訪問介護サービスは大きく分けて、身体介護、生活援助、通院等乗降介助の3つに分けられます。身体介助とは、食事介助、入浴介助、おむつ交換といった身体に直接触れて行うサービスです。生活援助は、調理、掃除など日常生活を支援するサービス、通院等乗降介助は通院等で乗車前、降車後に行う介助サービスです。
身体介護 | 利用者の身体に直接接触して行われるサービス等(例:入浴介助、排せつ介助、食事介助 等) |
生活援助 | 身体介護以外で、利用者が日常生活を営むことを支援するサービス(例:調理、洗濯、掃除 等) |
通院等乗降介助 | 通院等のための乗車又は降車の介助(乗車前・降車後の移動介助等の一連のサービス行為を含む) |
社会保障審議会介護給付費分科会(第220回)資料1(令和5年7月24日)
もめがちな生活援助の範囲
このうち、「してほしい」と「できない」で、利用者とヘルパーが対立しがちなのが生活援助です。「老計第10号」では、生活援助のサービス範囲を概括的に以下のように定めています。
生活援助とは、身体介護以外の訪問介護であって、掃除、洗濯、調理などの日常生活の援助(そのために必要な一連の行為を含む)であり、利用者が単身、家族が障害・疾病などのため、本人や家族が家事を行うことが困難な場合に行われるものをいう。(生活援助は、本人の代行的なサービスとして位置づけることができ、仮に、介護等を要する状態が解消されたとしたならば、本人が自身で行うことが基本となる行為であるということができる。)
※ 次のような行為は生活援助の内容に含まれないものであるので留意すること。
① 商品の販売・農作業等生業の援助的な行為
② 直接、本人の日常生活の援助に属しないと判断される行為
老計第10号「訪問介護におけるサービス行為ごとの区分等について」
「日常」「本人」が分かれ目
ここで、注意すべきことは、まず、生活援助の対象が「生活全般」ではなく、「日常生活」に限定されていることです。日常的に行われる家事の範囲を超えたもの、特別な時に行う家事は対象外となります。
また、サービスを受ける前提として、
- 利用者が単身
- 家族が障害・疾病など
のため、「本人や家族が家事を行うことが困難」でなければなりません。つまり、「家族がやれるなら生活援助の対象外」というスタンスです。
また、「直接、本人の援助」が目的であるため、家族の援助になることは原則として対象外となります。同じ家の中でも掃除できる部屋とできない部屋があるわけです。
国が示す生活援助の具体例
「老計第10号」では生活援助について、具体的に次のように定めています。こうしたサービスのひとつひとつを、「日常生活に関わるものか」「本人のみの援助になっているか」「家族が援助できないか」といった観点から「できる」「できない」を仕分けていきます。
生活援助
掃除 | ▽居室内やトイレ、卓上等の清掃 ▽ゴミ出し▽準備・後片づけ |
洗濯 | ▽洗濯機または手洗いによる洗濯 ▽洗濯物の乾燥(物干し) ▽洗濯物の取り入れと収納▽アイロンがけ |
ベッドメイク | ▽利用者不在のベッドでのシーツ交換、布団カバーの交換等 |
衣類の整理 | ▽衣類の整理(夏・冬物等の入れ替え等)▽被服の補修(ボタン付け、破れの補修等) |
一般的な調理、配下膳 | ▽配膳、後片づけのみ ▽一般的な調理 |
買い物・薬の受け取り | ▽日常品等の買い物(内容の確認、品物・釣り銭の確認を含む)▽薬の受け取り |
奈良県橿原市の場合
こうした「老計第10号」を基に、各自治体で介護サービスを提供しています。奈良県橿原市では、利用手引きにおいて「できない行為」を具体的に例示しています。
「日常生活の援助」の範囲を超えるものとしては、
- 大掃除
- 窓拭
- 模様替え
- ペットの世話
- 車の洗浄
- 花木の水やり
- 草取り
- 正月・節句等特別な調理
- 踏み台を使う蛍光灯交換
- 植木の剪定等の園芸
- 来客対応
などが挙げられています。
酒や煙草の買い物については、「日常生活上において必要最低限」の物品ではない「嗜好品」であるため、訪問介護員が購入することはできない、としています。市販薬の購入もサービスの対象外です。
また、家族の居室の掃除、家族の分の買い物・料理は、「本人援助」に該当せず「できない」としています。利用者と家族の共有スペースの掃除、共有する買い物、料理については、家族が障害や病気のために家事をできない場合、ケアマネらの担当者会議を経てサービスを受けられることがあります。
身体介護のサービス範囲は?
ここまで、「してほしい」「できない」の対立が多い生活援助について述べてきましたが、訪問介護の柱のうち「身体介護」でも、対立が起こることがあります。「老計第10号」で「身体介護」が、具体的にどう規定されているかについても確認しておきましょう。
身体介護の主なものは以下のようなものです。手順など詳しく記載されています。
トイレ利用 | ▽トイレまでの安全確認→声かけ・説明→トイレへの移動(見守りを含む)→脱衣→排便・排尿→後始末→着衣→利用者の清潔 介助→居室への移動→ヘルパー自身の清潔動作 ▽(場合により)失禁・失敗への対応(汚れた衣服の処理、陰部・臀部の清潔介助、便器等の簡単な清掃を含む) |
おむつ交換 | ▽声かけ・説明→物品準備(湯・タオル・ティッシュペーパー等)→新しいおむつの準備→脱衣(おむつを開く→尿パットをとる)→陰部・臀部洗浄(皮膚の状態などの観察、パッティング、 乾燥)→おむつの装着→おむつの具合の確認→着衣→汚れたおむつの後始末→使用物品の後始末→ヘルパー自身の清潔動作 ▽(場合により)おむつから漏れて汚れたリネン等の交換 ▽(必要に応じ)水分補給 |
食事介助 | ▽声かけ・説明(覚醒確認)→安全確認(誤飲兆候の観察)→ヘルパー自身の清潔動作→準備(利用者の手洗い、排泄、エプロン・タオル・おしぼりなどの物品準備)→食事場所の環境整備→食事姿勢の確保(ベッド上での座位保持を含む)→配膳→メニュー・材料の説明→摂食介助(おかずをきざむ・つぶす、吸い口で水分を補給するなどを含む)→服薬介助→安楽な姿勢の確保→気分の確認→食べこぼしの処理→後始末(エプロン・タオルなどの後始末、下膳、残滓の処理、食器洗い)→ヘルパー自身の清潔動作 ▽嚥下困難者のための流動食等の調理 |
清拭(全身清拭) | ▽ヘルパー自身の身支度→物品準備(湯・タオル・着替えなど)→声かけ・説明→顔・首の清拭→上半身脱衣→上半身の皮膚等の観察→上肢の清拭→胸・腹の清拭→背の清拭→上半身着衣→下肢脱衣→下肢の皮膚等の観察→下肢の清拭→陰部・臀部の清拭→下肢着衣→身体状況の点検・確認→水分補給→使用物品の後始末→汚れた衣服の処理→ヘルパー自身の清潔動作 |
全身浴 | ▽安全確認(浴室での安全)→声かけ・説明→浴槽の清掃→湯はり→物品準備(タオル・着替えなど)→ヘルパー自身の身支度→排泄の確認→脱衣室の温度確認→脱衣→皮膚等の観察→浴室への移動→湯温の確認→入湯→洗体・すすぎ→洗髪・すすぎ→入湯→体を拭く→着衣→身体状況の点検・確認→髪の乾燥、整髪→浴室から居室への移動→水分補給→汚れた衣服の処理→浴槽の簡単な後始末→使用物品の後始末→ヘルパー自身の身支度、清潔動作 |
身体整容 | ▽声かけ・説明→鏡台等への移動(見守りを含む)→座位確保→物品の準備→整容(手足の爪きり、耳そうじ、髭の手入れ、髪の手入れ、簡単な化粧)→使用物品の後始末→ヘルパー自身の清潔動作 |
更衣介助 | ▽声かけ・説明→着替えの準備(寝間着・下着・外出着・靴下等)→上半身脱衣→上半身着衣→下半身脱衣→下半身着衣→靴下を脱がせる→靴下を履かせる→着替えた衣類を洗濯物置き場に運ぶ→スリッパや靴を履かせる |
体位変換 | ▽声かけ、説明→体位変換(仰臥位から側臥位、側臥位から仰臥位)→良肢位の確保(腰・肩をひく等)→安楽な姿勢の保持(座布団・パットなどあて物をする等)→確認(安楽なのか、めまいはないのかなど) |
移乗・移動 | ▽車いすの準備→声かけ・説明→ブレーキ・タイヤ等の確認→ベッドサイドで端座位の保持→立位→車いすに座らせる→座位の確保(後ろにひく、ずれを防ぐためあて物をするなど)→フットレストを下げて片方ずつ足を乗せる→気分の確認 ▽その他の補装具(歩行器、杖)の準備→声かけ・説明→移乗→気分の確認 ▽安全移動のための通路の確保(廊下・居室内等)→声かけ・説明→移動(車いすを押す、歩行器に手をかける、手を引くなど)→気分の確認 |
通院・外出介助 | ▽声かけ・説明→目的地(病院等)に行くための準備→バス等の交通機関への乗降→気分の確認→受診等の手続き ▽(場合により)院内の移動等の介助 |
服薬介助 | ▽水の準備→配剤された薬をテーブルの上に出し、確認(飲み忘れないようにする)→本人が薬を飲むのを手伝う→後かたづけ、確認 |
見守り的援助 | ▽認知症等の高齢者がリハビリパンツやパット交換を見守り・声かけを行うことにより、一人で出来るだけ交換し後始末が出来るように支援する。 ▽認知症等の高齢者に対して、ヘルパーが声かけと誘導で食事・水分摂取を支援する。 ▽入浴、更衣等の見守り(必要に応じて行う介助、転倒予防のための 声かけ、気分の確認などを含む)▽移動時、転倒しないように側について歩く(介護は必要時だけで、 事故がないように常に見守る) ▽本人が自ら適切な服薬ができるよう、服薬時において、直接介助は行わずに、側で見守り、服薬を促す。 ▽利用者と一緒に手助けや声かけ及び見守りしながら行う掃除、整理整頓 ▽ゴミの分別が分からない利用者と一緒に分別をしてゴミ出しのルールを理解してもらう又は思い出してもらうよう援助 ▽認知症の高齢者の方と一緒に冷蔵庫のなかの整理等を行うことにより、生活歴の喚起を促す。 ▽洗濯物を一緒に干したりたたんだりすることにより自立支援を促すとともに、転倒予防等のための見守り・声かけを行う。 |
医療行為はできない
身体介護については、医療行為との兼ね合いも大切です。医療行為の中には、家族が行っているような軽い処置も含まれます。例えば、褥瘡の処置、巻き爪の爪切りなどは医療行為に当たるので、ヘルパーが行うことはできません。
一方、通常の爪切り、軟膏の塗布、目薬の点眼などはヘルパーが行うことができます。