相続登記の義務化で、過料を科されるのはどんなケースですか?

法務局に出した書類に相続登記未了の不動産がある場合

相続登記を怠った人が10万円の過料の対象になる2024年4月1日からの相続登記の義務化で、過料を科されるのは、主に、法務局の職員(登記官)が通常の申請を審査する過程で把握できる違反です。法務局に提出する申請書類の中に相続登記未了の不動産が記載されている場合などは過料を科されるリスクは高まります。

通常の審査業務とは関係のないところで、登記官が無作為に不動産を選んで過料を科すとなると公平性に問題が出てきますので、そうした対応は取らないでしょう。

登記申請の審査の過程で把握した情報

過料は、相続登記の申請義務違反をキャッチした登記官から通知(過料通知)を受けた地方裁判所が判断します。相続登記申請の義務化に向け、運用上の取り扱いを明らかにした法務省のマスタープラン(23年3月22日付)では、違反のキャッチは「登記官が登記申請の審査の過程等で把握した情報により行う」としています。

「審査の過程等で把握」とは具体的にはどういうケースなのでしょう。その例として、次の二つが挙げられています。

A 相続人が遺言書を添付して遺言内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺言書に他の不動産の所有権についても当該相続人に遺贈し、又は承継させる旨が記載されていたとき。

B 相続人が遺産分割協議書を添付して協議の内容に基づき特定の不動産の所有権の移転の登記を申請した場合において、当該遺産分割協議書に他の不動産の所有権についても当該相続人が取得する旨が記載されていたとき。

法務省マスタープラン

 

この例からすると、法務局に提出した一つの書面の中に、申請する不動産と申請しない不動産がある場合が要注意ということになります。

相続登記の申請義務化に向けたマスタープラン

「正当な理由」がないのに申請しない場合

 また、過料通知するのは、登記官が違反者に催告し、「正当な理由」がないのに申請しない場合に限る、としています。「正当な理由」があれば過料通知は行いません。

「正当な理由」の一つは、「数次相続が発生して相続人が極めて多数」の場合です。

 数次相続とは、Aさんの遺産分割をしない間に、その相続人であるBさんが亡くなって次の相続が起こることをいいます。遠い先祖名義の土地が放置されているケースでは、法定相続人の数が膨れ上がり、確認するために大量の戸籍関係書類を集めなくてはなりません。

このほか、申請義務を負う人が重病であったり、経済的に困っていて登記に関する費用を出せなかったりすることなども「正当な理由」として挙げています。

「正当な理由」となる事情

  • 数次相続が発生して相続人が極めて多数に上り、かつ、戸籍関係書類等の収集や他の相続人の把握等に多くの時間を要する場合
  • 遺言の有効性や遺産の範囲等が争われているために不動産の帰属主体が明らかにならない場合
  • 相続登記の申請義務を負う者自身に重病等の事情がある場合
  • 相続登記の申請義務を負う者がDV被害者等であり、その生命・身体に危害が及ぶおそれがある状態にあって避難を余儀なくされている場合
  • 相続登記の申請義務を負う者が経済的に困窮しているために登記に要する費用を負担する能力がない場合
法務省マスタープラン

「正当な理由」は上のようなケースだけに限定されず、登記官がそれぞれの事情をていねいに確認した上で判断することになっていますで、独断であきらめず、法務局に相談してみるとよいでしょう。