銀行口座の「代理人予約」は認知症対策に有効ですか

医療や介護で本人にお金が必要なのに、認知症であるために預金を引き出したり、投資信託を解約したりできない、といった問題がよく起こります。こうした事態を未然に防ぐために、判断力があるうちに代理人を予約しておくという銀行の新サービスが、近年、登場しています。従来の銀行の代理人手続きと異なり、本人の意思確認が困難になることを想定していて、金融取引に限られてはいるものの、任意後見や信託に近い性格をもっています。

全銀協文書からの新局面

新サービスを基礎づけているのは、全国銀行協会が2021年2月18日の理事会でまとめた「金融取引の代理等に関する考え方」です。

この書面では、本人に認知判断能力がない場合でも、

「本人から親族等への有効な代理権付与が行われ、銀行が親族等に代理権を付与する任意代理人の届出を受けている場合は、当該任意代理人と取引を行うことも可能(本人の認知判断能力に問題がない状況であれば、本人との取引が可能なケースもある)」

つまり、
①本人から代理権が付与され
②代理人の届出がなされていれば
本人に判断能力がなくても、銀行は代理人と金融取引ができるというのです。

全銀協の「金融取引の代理等に関する考え方」文書

手間いらずで無料

全銀協の方針と軌を一にして、本人が判断能力を失った後に、前もって届出(予約)しておいた代理人に金融取引を託すことができる「代理人予約」サービスが登場しました。

任意後見や信託を利用するには費用と手間がかかります。これに対して「代理人予約」は無料でしかも手続きが簡単です。

三菱UFJ銀行の「予約型代理人サービス」

三菱UFJ銀行、三菱UFJ信託銀行などは、2021年3月22日から、「予約型代理人サービス」を開始しました。

本人が代理人を予約(届出)しておき、認知判断機能が低下して金融取引ができなくなった時に、代理人が銀行に診断書を提出し、本人に代わって金融取引を始めることができます。手数料は無料です

代理人予約は、本人が取引印、本人確認書類を銀行に持っていけばできます。代理人が金融取引を開始するときは、銀行所定の診断書、本人との関係がわかる公的文書などの提出が必要です。

予約型代理人サービスのポイント

代理人になれる人原則、配偶者または二親等以内の血族
代理人にできること預金の入出金・解約 投資信託、株式などの売却・解約など
いつから代理?銀行所定の診断書などを提出した後

みずほ銀行の「代理人予約サービス」

みずほ銀行には、「代理人予約サービス」という三菱UFJ銀行に似たサービスがあり、「本人の意思確認ができなくなった場合」でも代理人が資産管理できる、とうたっています。

代理人に指定できるのが「原則、配偶者または二親等以内の血族」、代理人による取引開始が「銀行所定の診断書提出後」、手数料が無料である点は三菱UFJ銀行と同じです。サービスの申込の際に「代理人との来店」を求めている点は異なります。

日弁連「不正利用の温床おそれ」

このように、判断能力低下した後の金融取引を任意代理人に委託する行為は、民法上は可能です。しかし、本人が信頼して委託しただ代理人が、信頼通りに資産の管理を行う保証はありません。

日弁連は21年6月17日に意見書を発表し、任意代理人による金融取引は「不正利用の温床になるおそれがある」と警鐘を鳴らしています。

その上で、不正防止対策として▽預金払出しの上限額の設定▽代理人の範囲の限定▽銀行の指示に従わない代理人との取引拒否▽代理人が財産を侵害したときの市町村への通報――などを提言しています。

任意後見契約なら、任意後見監督人や家裁が財産管理をチェックします。費用がかからず簡単な「代理人予約」ですが、上記のような懸念が残ることにも留意しておくべきでしょう。