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秘密証書遺言があまり利用されていない理由はなんですか
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秘密証書遺言は、内容を秘密にしたままで、遺言の存在を公証してもらう遺言形式です。
令和3年の公正証書遺言の作成件数10万6028件です。これに対して秘密証書遺言は年間100件強ですので、実に公正証書遺言の1%未満。いかに秘密証書遺言の人気がないかがわかります。
秘密証書遺言を作成する手順は以下のようなものです。
- 遺言者が遺言書を作成
本文は自書する必要はありません。パソコンで書いてもいいし、第三者に書いてもらっても問題ありません - 遺言書に署名・押印
- 遺言書を封筒に入れて、遺言書に押した印章で封印
- 公証役場などで封書を公証人1人と証人2人の前に提出
- 遺言者が自己の遺言書であることと氏名、住所を申述
- 公証人が遺言書提出日と遺言者の申述内容を封紙に記載
- 遺言者、証人、公証人が封紙に署名、押印
- 公証役場で封紙の控えを保管
メリットとしては、封をしてから公証役場にもっていきますので、▽公証人や証人に内容を知られることがない▽相続人が公証役場で遺言書の存在を確認できる▽存在が公証されているので偽造、変造がしにくい――点があげられます。
しかし、秘密証書遺言には、自筆証書遺言と同様の弱点があります。公証人らが内容を見ないということは、遺言書を無効にする法的な不備がスルーされるということでもあります。また、公証役場では、封紙の控えを保管するだけで、本体を保管しませんので、遺言書自体を発見できない可能性があります。さらに、偽造、変造はしにくくても、相続人らによって隠匿、廃棄される恐れはあります。家裁での検認も必要です。
そして、公正証書遺言と同様、証人2人が必要で、公正証書遺言よりは安価ですが費用(1万1000円)がかかります。
つまり、自筆証書遺言、公正証書遺言の双方のデメリットをもちながら、メリットが少ないという点が、極端にマイナーになっている理由です。自筆証書遺言については法務局での保管制度が導入されたことから、遺言書の存在を確認できるという長所もかすんでしまいました。自書が要件ではないことから、子供らが自分に都合のよい遺言書をパソコンで作り、判断能力が低下した高齢者が署名押印させるリスクも指摘されており、廃止論もあります。
ただし、遺言者が病気などで自書が困難な場合には選択肢のひとつになってくるでしょう。
関連条文
民法
▽民法970条
秘密証書によって遺言をするには、次に掲げる方式に従わなければならない。
一 遺言者が、その証書に署名し、印を押すこと。
二 遺言者が、その証書を封じ、証書に用いた印章をもってこれに封印すること。
三 遺言者が、公証人一人及び証人二人以上の前に封書を提出して、自己の遺言書である旨並びにその筆者の氏名及び住所を申述すること。
四 公証人が、その証書を提出した日付及び遺言者の申述を封紙に記載した後、遺言者及び証人とともにこれに署名し、印を押すこと。 - 遺言者が遺言書を作成