「終の棲み家」をどこにするのか、それは大きな問題です。

「自宅で最期を迎えたい」という思いは時代を超えたものでしょう。しかし、核家族化が進んだ昨今では、そのために払わなければならない代償も大きい。一方、施設・病院にいるからこそ、かなえられることもあります。

日本財団の2020年調査では、人生の最期を迎える場所として、58.8%が「自宅」、33.9%が「医療施設」を希望しています。反対に、避けたい場所として、42.1%が「子の家」を挙げています。家族に迷惑をかけたくない、という気持ちが強いのでしょう。

「さわやか福祉財団」が発行する「さあ、言おう」6月号に、元NHK解説委員で福祉ジャーナリストの村田幸子さんがエッセイを綴っています。タイトルは「終の棲み家に翔びました」。最近、住宅型の有料老人ホームに入居されたそうです。

村田さんは、「在宅の暮らしこそ一番」という国をあげての風潮に違和感をもっておられました。

住み慣れた家なら自分らしく過ごせます。それに、自宅で過ごす高齢者が増えれば、医療費や介護費の削減につながる。高齢者側のニーズと国の懐事情の両方から「在宅」礼賛の風潮があります。

しかし、要介護者に介護サービスさえ届けばいいというわけではありません。おひとりさまであれば、訪問介護があるとき以外は、一人でいる時間が長くなります。その間、テレビを見て、部屋の景色をみているだけではつらいでしょう。

「周りに人の気配や話し声がほしいのです。たとえ仲間に入れなくとも、部屋の空気が動いていると感じられる状況に居たいのです」。村田さんの気持ち、よくわかります。

「人の気配」、「空気の動き」も生きる上で欠かせないものでしょう。それは訪問介護だけでは実現できません。地域の支え合いでかなえられるなら言うことはない。しかし、それを期待できないなら、終の棲家に「翔ぶ」ことを容易に選択できる社会であってほしいものです。

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