故人の遺産を相続したくない場合は▽遺産分割協議で自分の相続分をゼロとする▽相続放棄する▽相続分を譲渡する――といった方法があります。相続分の譲渡は口頭の合意でも可能ですが、書面で行うのが一般的であって、これを証明するのが相続分譲渡証明書です。

相続分譲渡は、主に、遺産分割協議に参加したくない人が選択します。「相続トラブルに巻き込まれるのはご免」という人です。早くお金が欲しいという理由で、有償で譲渡する人もいます。

相続分譲渡の特徴としては、自分の相続分を自分の意思で相続人ではない第三者にも譲り渡すことができるという点です。相手が自分の配偶者や子であってもいいし、親族ではない人であっても可能です。

譲り受けた人(譲受人)は、相続人の地位を承継し、遺産分割の当事者となります。したがって、第三者が遺産分割協議に入ってくることになり、他の相続人からすると、好ましくない事態となり得ます。そこで民法では、1か月以内であれば、譲渡の価額・費用を負担すれば、他の相続人が相続分を取り戻すことができる、という規定を設けています。「1か月以内」ですので、すみやかに譲渡があったことを知らせてあげるべきでしょう。

譲り受けたのが特定の財産の持分である場合は、相続人の地位を受け継いだわけではありませんので、譲受人は遺産分割に参加することはできません。財産の分割請求は、遺産分割審判ではなく、共有物分割訴訟によります。

相続分譲渡で気を付けなくてはならないのは、故人の負債の支払い義務がなくなるわけではない、ということです。債権者は相続分を譲り渡した人にも法定相続分の債務の履行を求めることができます。また、相続人以外に無償譲渡した場合は譲受人に贈与税が、有償譲渡なら譲渡人に所得税がかかる可能性があります。

相続放棄相続分譲渡
故人の負債負債の支払い義務なし負債の支払い義務が残る
期限相続開始を知った時から3か月以内遺産分割前
相続分他の相続人に割り振り相続人にも、第三者にも譲渡可能
有償・無償無償無償でも有償でも可

関連条文
▽民法905条
共同相続人の一人が遺産の分割前にその相続分を第三者に譲り渡したときは、他の共同相続人は、その価額及び費用を償還して、その相続分を譲り受けることができる。
2 前項の権利は、一箇月以内に行使しなければならない。

民法

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