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親の土地に家を建てて無償で住んでいます。これは贈与になりますか
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親の土地に子供が家を建てて住み、地代を払っていないケースはよく耳にします。他人の土地を借りて家を建てるなら、借地契約を結び借地権の権利金と地代を払わなくてはなりません。それが親の土地だと払わずに済み、その分家計が助かります。
権利金や地代を払っていないのだから、その分を子供に贈与したことになるのではないか、そう感じるのは自然でしょう。
しかし、このように対価を払わずに物を借りて使用することは民法上、「使用貸借」といって「賃貸借」とは区別されます。親の土地に家を建てて無償で住むケースでは、「借地権」ではなく「使用借権」が子供に贈与されたことになるのです。
この権利に対する贈与税は払わなくてもいいのですが、遺産分割上の特別受益に当たる贈与となる可能性はあります。この件も、税金の世界と遺産分割の世界を区別して考えます。
①納税
税務署は、使用貸借による使用権の価額をゼロとして扱います。したがって、贈与税はかかりません。逆に、借地権の権利金を払っていなかった子供が地代を払うと、賃貸借となって借地権が発生し、それを贈与したとして贈与税がかかる可能性があります。納税者としては、わかりにくいロジックです。払わなかった地代に関しては贈与税の対象となる恐れがありますが、国税庁の通達で、あえて課税しなくてもいいことになっています。
相続税に関しては注意が必要です。使用貸借している土地は、相続に関しては「自用地(更地)」として評価されます。借地権がついている「貸宅地」として評価されません。相続税は「更地」の方が「貸宅地」より高くなりますので、むしろ賃貸借契約を結んだ方が節税になることがあります。
②遺産分割
遺産分割では、親の土地に家を建てて地代を払っていない場合は、生計の資本として、使用借権の贈与を受けたとみなされます。したがって、使用借権の価額が特別受益として相続財産に持ち戻されます。持ち戻しとは、贈与を「相続分の前渡し」とみて、相続財産に加算することです。加算したものを相続人で分けます。
使用借権の評価は、「更地」の価額の1~3割といわれています。この評価は故人が亡くなった時点を基準にします。借地権よりはかなり安いものの、それなりの額になります。1000万円の土地なら100万~300万円です。
他人が貸主なら払わなければならなかった地代相当額までは特別受益とみなされません。使用借権の価額は「地代込み」とする判例があります。
親の建物に子供が無償で住んでいるケースもあります。この場合は、土地とは事情が異なります。建物についても使用借権の贈与にあたります。しかし、▽土地と違って建物の使用借権は経済的な価値は極めて低い▽故人が無償使用を承諾していたのだから持ち戻し免除の意思を表示していると推定される――ことなどから、特別受益とされないのが一般的です。土地と同様、賃料相当額も特別受益に当たらないでしょう。
親が所有する建物で子供が同居している場合は、特別受益になる可能性はさらに低くなります。親もその建物を占有していたわけですし、子供が賃料を払わないことは親の面倒をみる対価ともいえるからです。
関連条文
民法
▽民法593条
使用貸借は、当事者の一方がある物を引き渡すことを約し、相手方がその受け取った物について無償で使用及び収益をして契約が終了したときに返還をすることを約することによって、その効力を生ずる。