市民後見人とは、本人の親族ではなく、弁護士などの士業者でもなく、市町村の養成講座を受けて、候補者名簿に登録して、家庭裁判所から選任を受けた、一般の市民の方です。

認知症の高齢者が増え、身寄りのない人、家族関係が希薄な人が増加する一方、後見人を引き受ける専門職の数には限りがあり、市民後見人の養成が急がれています。

市民後見人等1904人

令和5年には全国344件で市民後見人が選任されていて、前年の271件から27%増えています。これまでの累計は、厚生労働省の調査によると、令和5年4月1日までの養成者は2万3323人、うち登録者数は8202人、成年後見人等の受任者は1904人です。

令和5年度成年後見制度利用促進施策に 係る取組状況調査結果(概要版)

講座を受講して名簿に登録

市民後見人になるまでの流れは次のようになります。

  • 市民後見人養成講座を受講
  • 社協やNPOの事業の支援員として活動
  • 市民後見人候補者名簿に登録、家庭裁判所に提出
  • 市町村などが後見人候補者として家庭裁判所に推薦
  • 家庭裁判所が後見人として選任

市民が後見人になるのは、首長(市町村長)が後見を申立てる場合が多く、その際、市町村が市民後見人の選任を希望する旨の意見書などを作成して申立書に添付します。もっとも、市民後見人の選任は首長申立てに限らず、本人申立てや親族申立てで選任された例もあります。

市民後見人の報酬はあり?なし?

民法上は、市民後見人も家庭裁判所に報酬付与の申立てをすることができます。実際、地域によっては、市民後見人が報酬付与の申立てをしています。

一方、市民後見を社会貢献活動と位置付けて無報酬としている市町村も目立ちます。この場合、後見活動にかかる交通費などの実費のみ、被後見人の財産から支出されます。

また、市民後見人が加入する損害賠償保険の保険料を、市民後見人が負担するケースもあれば、市町村や基金が支出するケースもあります。

奈良市では令和3年に第1号

市町村の具体的な取り組みを見ていきましょう。

奈良市では平成26年に第1回の市民後見人養成講座を開き、その修了者が令和3年6月に第1号の市民後見人になっています。

同市の養成講座は計8日間あり、成年後見制度に関する法律や市の制度、後見の申立て方法などについて学び、高齢者施設での実習などを行います。講座の受講後は、NPO法人の後見支援員や社協の生活支援員として2年以上実務経験を積み、候補者名簿に登録されます。令和6年3月現在で7人の市民後見人がいます。

市民後見人が担当する事案とは

市民後見人が担当するのは、本人の生活が安定していて、紛争性がなく、難しい法律的な判断を迫られることのない事案です。

具体的には、

  • 親族による虐待がない
  • 親族間の争いがない
  • 緊急の居所の確保、福祉的支援が必要ない
  • 本人に他害行為がない
  • 本人に負債がない
  • 家族に対する支援が必要ない
  • 多額の財産処分が必要ない
  • 相続手続が必要ない
  • 後見事務費を本人が払える

といった事案です。

市民後見人に選任された後は、市町村や社協などが市民後見人からの相談に対し助言し、実務に役立つ研修を実施しています。