民法968条の2には、自筆証書遺言の財産目録は手書きでなくてもよいけれど、各ページに署名押印するよう求めています。しかし、これは、絶対的なものではありません。昨年秋、札幌地裁は、署名押印のない財産目録をつけた遺言書を有効とする判決を言い渡しました。
令和3年9月24日 札幌地方裁判所 令和2(ワ)3023
主文「原告の請求を棄却する」
訴えていたのは、遺言者の二男です。ワープロで作成され署名押印のない財産目録を添付した自筆証書遺言(令和元年12月30日付)の無効確認を求めていました。相続人は、二男とその兄、母親の3人で、兄と母親が被告になっていました。
この遺言書は、8枚目の財産目録を除いて、1枚目から10枚目まで便箋に縦書きで自筆されたものでした。7枚目に署名押印がありましたが、8枚目に署名押印はありません。
財産目録には、生命保険、預貯金、国庫債権の3種類の財産が表にして記載されていました。遺言書の本文では、死亡保険金は契約上の受取人が受け取り、生命保険以外の金融資産については、法定相続分の割合で相続させると書いていました。
判決では、各ページに署名押印のない目録は無効だとしつつも、「財産目録が付随的・付加的意味をもつにとどまり、その部分を除外しても遺言の趣旨が十分に理解され得るときには、自筆証書遺言の全体が無効となるものではない」としました。
受取人が決まっている生命保険は「無益的記載」であり、法定相続分の割合で相続させるとした生命保険以外の金融資産についても、本文で預貯金、国庫債券への言及はなく、財産目録は付随的な存在であると判断しました。
原告側は、財産目録は、遺言の対象となる金融資産を特定したもので、遺言書の中で最も重要な部分であり、目録が無効であれば、遺言書全体が無効になる、と主張していました。一方、被告側は、目録がなくても資産を特定できるから、目録が無効であっても、遺言書全体は無効にならない、と反論していました。
関連条文
民法
▽民法968条の2
前項の規定にかかわらず、自筆証書にこれと一体のものとして相続財産(第997条第1項に規定する場合における同項に規定する権利を含む。)の全部又は一部の目録を添付する場合には、その目録については、自書することを要しない。この場合において、遺言者は、その目録の毎葉(自書によらない記載がその両面にある場合にあっては、その両面)に署名し、印を押さなければならない。