遺産分割協議書の書き方に定型はありません。亡くなった被相続人と相続人が特定できて、どの財産が、どの相続人に帰属するのか明確に記述され、相続人全員が合意したことがわかり、全員の住所、署名押印があればよいのです。書く順番や表現の仕方は裁量の余地が大きいのです。
普及しているスタイルはいくつかあります。それを踏まえて、加筆や省略、順番の入れ替えなど、その人ならではマイナー変更を加えるため、作成者の個性が出ます。
「後々もめごとが起こらないように」という気持ちは一致しているのですが、「より詳しく」「よりシンプルに」「よりわかりやすく」など重視する点が異なるのです。
違いの出てくる点は以下のような点です。
▽記載するかしないか
前文
・被相続人の住所、本籍、生年月日
・相続人の名前、続柄
本文
・「土地」「建物」の見出し
・家の中の家財
・預金の残高
相続人署名欄
・署名の前の「相続人」
・生年月日
▽書き方
・冒頭に被相続人の基本情報をまとめるか
・前文の締め。「協議を行った」か「決定した」か「合意した」か「成立した」か
・相続人は氏名で通すか、「甲乙丙」式にするか
・相続人が「相続する」と書くのか「取得する」と書くのか
・「取得する財産」なのか「財産を取得する」なのか
・財産はどこまで詳細に書くのか
▽記載の位置
・作成の日付
・相続人の署名、住所
・捨印
冒頭の書き方は主に二つの流派があります。
ひとつは、箇条書きで被相続人の基本情報を集約するタイプです。
被相続人 〇〇〇〇(令和×年×月×日死亡)
本籍 奈良県〇〇市〇〇町〇〇〇〇
最後の住所 奈良県〇〇市〇〇
これに生年月日を加える人もいます。
もうひとつは、普通の文章で
「令和×年×月×日 〇〇〇〇の死亡により開始した相続につき」とか「被相続人〇〇〇〇(令和×年×月×日死亡 住所 奈良県〇〇市…)の遺産については」などと、普通の文章で書き始めるタイプです。
専門士業が示す文例では、基本情報集約型が多いように思います。この方が被相続人の情報を盛り込みやすいという利点があります。一方、法務局、金融機関、税務署など遺産分割協議書を受け取る側が作る見本には文章型が目立ちます。それほど詳しいデータは必要ないと考えているのでしょう。
本文については、さらに違いが出てきます。
例えば、1人に全財産を相続させるときは
「被相続人の一切の財産は〇〇〇〇が相続する」で事足ります。
しかし、「『一切の財産』って、どんな財産ですか?」という気持ちがわいてくる人もいる。私もそうです。相続の集大成ともいうべき書類に、財産の内容がないのは、どうもしっくりこない。遺産を相続しない相続人が、後から「こんな財産あるとは知らなかった」と言い出したときに「ここに書いてある。知らないはずはない」と反論できない。それに、協議の経緯を知らない孫やひ孫が将来、協議書を見ることがあれば、あまりに謎めいた文書となります。
「一切の財産」を好まない人は、財産を具体的に盛り込みます。「下記の被相続人の財産は〇〇〇〇が相続する」と書いて、財産を列記する。財産の種類ごとに書き分けるなら、「次の不動産は○○〇〇が相続する」「次の預貯金は〇〇〇〇が相続する」と1人の相続人の名前が5回も6回も出てくるケースもあります。(続く)