土地の登記簿を見ると、通常、その土地の所有者か、所有者だった人がわかります。昔の所有者が書かれている場合は、戸籍をたどっていけば、現在の所有者にたどり着きます。ところが、昔の所有者さえわからない不完全な登記簿もあります。こうした土地の所有者を調べることも、各地の法務局で行われています。

表題部不明土地のイメージ写真

表題部所有者とは

登記簿は、表題部と権利部に分かれます。表題部には土地の所在、地番、地目、地積などが、権利部には所有権に関する情報が記されています。この権利部がない登記簿については、表題部に所有者が記録されます。これを表題部所有者といいます。

表題部の所有者欄には、本来、所有者の氏名または名称と住所が記載されていなければなりませんが、この所有者欄の記載が変則的になっていて、所有者が不明になっている土地が表題部所有者不明土地で、法務局の調査の対象になります。

変則的記載

変則的記載には以下のようなものがあります。

*表題分の所有者欄の通常の記載は「藤原京市大字六条555番地 橿原太郎」などとなっています。

変則的記載特徴具体的な変則的記載例
①氏名のみの土地氏名・名称あり、住所なし「橿原太郎」
②字持地(あざもちち)大字名あり、氏名・住所なし「大字六条」
③記名共有地共有者1人の氏名記載、住所なし「橿原太郎外三名」

このような変則的記載があるのは、税務署が徴税のために作成した旧土地台帳の記載が今の不動産登記簿に引き継がれているからです。平成29年9月から平成30年5月に行った全国50万筆調査では、そのうち約1%が表題部所有者が不明の土地でした。

誰が調べるの?

令和元年11月に施行された「表題部所有者不明土地の時及び管理の適正化に関する法律」では、登記官(法務局の職員)と法務局に任命された「所有者等探索委員」が調査にあたり、所有者がわかれば登記簿が修正され、わからなかった場合は裁判所の関与のもとで管理します。調査されるのは年間7700筆です。「所有者等探索委員」は非常勤の国家公務員の位置付けで、司法書士、土地家屋調査士、自治体OBらが任命されています。

調査の流れ

  • 対象の土地の選定
  • 所有者探索の公告
  • 調査
    登記官が調査し、必要な場合は、所有者等探索委員が調査して登記官に報告
  • 登記官による所有者の特定、登記

調査地域の選び方は?

表題部所有者の調査を行う土地の選定基準は、▽自然災害に被災し復興作業を行う地域▽早急に防災対策を行う必要がある地域▽まちづくりや森林整備の計画されている地域▽人口減や高齢化で所有者調査がますます難しくなる地域▽字単位で所有者不明土地が多い地域などです。

当事務所のある奈良県橿原市の近辺では、宇陀市の対象地域が多く、令和4年度で4地域、令和5年度で3地域が選定されています。

どうやって調べるの

登記官や所有者等探索員は、古い資料、住民からの聞き取りなどによって、所有者を割り出していきます。

  • 旧土地台帳や閉鎖登記簿の確認
  • 所有者と考えられる者の戸籍謄本の確認
  • 過去帳の調査
  • 市町村に情報提供を求める
  • 当該地の周辺にある土地の管理状況調査
  • 判明している所有者、占有者から聞き取り
  • 地元の事情通からの聞き取り

どんな風に登記?

所有者を特定できた場合は、例えば次のように登記されます。

変則的記載具体的記載例
①氏名のみの土地「橿原太郎」➡藤原京市大字六条555番地 橿原太郎
②字持地(あざもちち)「大字六条」➡藤原京市
③記名共有地「橿原太郎外二名」➡  藤原京市大字六条555番地 持分3分の1 橿原太郎  藤原京市大字七条222番地 持分3分の1 橿原一郎 藤原京市大字九条333番地 持分3分の1 橿原花子

所有者がわからなかったら?

登記官や「所有者等探索委員」が調べても、所有者がわからなかった土地については、裁判所が選任した管理者が管理することができます。管理者は裁判所の許可を得て土地を売却することもでき、売却代金を供託し、時効消滅の後に国庫に帰属します。

関連条文
表題部所有者不明土地の時及び管理の適正化に関する法律9条
法務局及び地方法務局に、第3条第1項の探索のために必要な調査をさせ、登記官に意見を提出させるため、所有者等探索委員若干人を置く。
2 所有者等探索委員は、前項の職務を行うのに必要な知識及び経験を有する者のうちから、法務局又は地方法務局の長が任命する。
3 所有者等探索委員の任期は、二年とする。
4 所有者等探索委員は、再任されることができる。
5 所有者等探索委員は、非常勤とする。

表題部所有者不明土地の時及び管理の適正化に関する法律