遺言書保管制度にはどんなメリットとデメリットがありますか

遺言書を作成するなら、公証人が関与する公正証書遺言がベストですが、自筆証書遺言でも、法務局の保管制度を利用すると、いくつかの自筆証書遺言の難点がクリアされます。手数料は3900円。「価値ある3900円」といえるでしょう。

遺言書保管制度の利用状況

この制度は、令和2年7月から始まり2年ほどが経過しました。法務省民事局が発表した最新のデータでは令和2年7月から令和4年8月までの2年2か月の間で、計4万310件の申請がありました。年間約1万数千件のペースです。公正証書遺言は年間10万件程度あります(令和3年10万6028件)ので、まだまだ普及しているとはいえません。当初、法務省は2030年ごろに30万件から40万件の利用を見込んでいたようです。

制度の概要

自筆証書遺言書の原本を法務局で保管し、あわせて画像データ化します。保管は原本が遺言者の死後50年、画僧データは150年。遺言者本人はいつでも原本や画像データを閲覧でき、撤回もできます。

遺言者が亡くなると、相続人は遺言書を閲覧できるとともに、遺言書の写し(遺言書情報証明書)を取得できます。これは遺言書を保管している法務局だけではなく、全国どこの法務局からもできます。

遺言書保管制度のメリット

検認を受けなくてもいい

遺言書保管制度を利用すると、公正証書遺言と同様、家庭裁判所で検認を受ける必要がなくなります。これは同制度の大きなメリットです。検認は手間のかかる手続きで、申立て、相続人への通知、家裁での開封、証明書の発行まで、長いときは1か月程度かかります。「検認不要」は、相続手続きを省力化します。

紛失、隠匿、改ざんの恐れがない

原本が法務局で保管され、電子データ化されているので、なくすことはありせんし、相続人が自分の都合のいいように手を加えたり、隠したりすることもできません。

死亡時に通知してもらえる

遺言者が希望した場合は、亡くなったときに、遺言書が保管されていることを特定の人(3人)に通知してもらうことができます。したがって、相続人が、遺言書が保管されていることを知らないまま相続手続きをするリスクを回避できます。これは法務局が市区町村の戸籍部署と連携しているからできることです。公正証書遺言を作成した場合でも、このような通知を受けることはできません。また、相続人の一人が閲覧したり写しを取得したりすると、他の相続人に通知される点も親切です。

遺言書保管制度のデメリット

いぜんとして無効になる恐れ

法務局では、遺言の内容についての相談にはのってもらえません。日付があるか、押印はあるかといった民法上の形式に適合するか否かのチェックをするだけです。保管されたからといって有効というわけではありません。自筆証書遺言の弱点はいぜんとして残り、内容や遺言能力を理由に無効になる恐れがあります。

法務局での本人手続きが必要

保管申請できるのは、本人だけです。代理人による申請や郵送による申請はできません。したがって、足腰の衰えた高齢者にとってはハードルは高くなります。申請書を書くことも多少負担になるでしょう。法務局は平日しか開いていませんので、定時勤務の人は仕事を休む必要があります。

書式に決まりがある

紙のサイズ、余白などにルールがあります。

自筆証書遺言の用紙、筆記具、書式に決まりはありますか」参照

このようなデメリットを考慮しても、手数料のわりにはメリットが大きく、この制度は利用する価値があります。費用的な理由などで公正証書遺言を作成することが難しい方は、ぜひ検討してみてください。

関連条文
法務局における遺言書の保管等に関する法律4条
遺言者は、遺言書保管官に対し、遺言書の保管の申請をすることができる。
2 前項の遺言書は、法務省令で定める様式に従って作成した無封のものでなければならない。
3 第一項の申請は、遺言者の住所地若しくは本籍地又は遺言者が所有する不動産の所在地を管轄する遺言書保管所(遺言者の作成した他の遺言書が現に遺言書保管所に保管されている場合にあっては、当該他の遺言書が保管されている遺言書保管所)の遺言書保管官に対してしなければならない。
(4、5略)
6 遺言者が第一項の申請をするときは、遺言書保管所に自ら出頭して行わなければならない。

法務局における遺言書の保管等に関する法律4条

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